2018年08月31日

血痰・喀血の外来診療3

診断のための検査として、ともかくまずは胸部 X 線写真を撮影することになります。これでそもそも肺に病変があるかどうか、そして病変がある場合、それが片側・限局性なのか両側びまん性に存在するのかを確認します。

片側・限局性に存在すれば限局した病変からの出血が考えられますし、両側びまん性に存在すれば肺胞出血を考えやすいです。

胸部CTを追加すれば画像所見、例えば空洞のある結節(肺扁平上皮癌、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺膿瘍、肺アスペルギルス症、多発血管炎性肉芽腫症など)、気管支拡張像、両側びまん性のすりガラス影(肺胞出血など)、肺末梢の楔形陰影(肺塞栓症)、拡張した異常血管像(肺動静脈瘻)などの所見から、診断を絞れる場合があります。

さらに造影CTでは、うまくすると出血しているかどうかや、出血している箇所がわかることがあります。

それからすぐに出来るものとしては喀痰検査。一般細菌や抗酸菌の塗抹・培養、そして細胞診を行います。出血している箇所から検体を得るわけですから安価で低侵襲な割に情報量が多く、有用です。

喀痰では診断が付かない場合、さらに気管支鏡検査が必要になったりしますが、出血が続いているときには視野が限られ、また不用意に凝血塊を除去することで大出血につながる恐れもあるため、早期に積極的に勧められるものではありません。ただ肺胞出血が疑われるときにはその後の治療にも関わるため、気管支肺胞洗浄で確認することもあります。

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2018年08月30日

血痰・喀血の外来診療2

喀血を診たときに、出血量がどの程度かというのは、もちろんキチッと測定できることは少なくて、かつては目分量で「杯一杯」とか「茶碗一杯」なんていっていたのですが、一応、目安として、100mL以上、コップ半分とかでしょうか、そのくらいを大量喀血、ということが多いようです。キチッとした定義はありません。

まあでもそのぐらいですと窒息の危険があり、挿管の準備が必要、といった具合に考えることが多いと思います。


…いいところですが、今日は1日医局の模様替え+会議+ちょっと遅れられない会があり、ここまでとさせて頂きます。続きはまた明日。

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2018年08月29日

血痰・喀血の外来診療1

血痰や喀血は、気道内のどこかから出血して、その血液が痰に混じって出てきたり(血痰)血液そのものが喀出される(喀血)ような状態のことです。

喀血と吐血の鑑別はしばしば問題になりますね。一般的には血液が泡沫状であったり、咳と共に喀出されたり、呼吸器症状があったりという場合は喀血と考えますし、検査では血液のpHを見てアルカリ性であれば喀血の可能性が高いと考えます。吐血の場合は胃酸で酸性になっているからです。

基礎に呼吸器疾患があったり、胸部X線写真で異常所見が見られたり、それから呼吸状態が悪いという場合にも喀血の可能性は高いと考えられます。

もちろん決定的な診断の決め手には、気道からの出血を確認(かつ/または)胃・消化管からの出血を否定する、というところですが、大量喀血の場合にはそこまでやっていられないかもしれません。


・診断のポイント

血痰や喀血の原因疾患としては、これまで気管支拡張症が最も多いと言われてきました。そして最近では肺癌の頻度が増えています。以前は肺結核症例が多く、喀血といえば肺結核だった時代もありますが、最近はさすがに減ってきています。

近年では、非結核性抗酸菌症が肺結核よりも増えています。肺結核は診断さえされれば、治療はしっかり行われるようになり、その後喀血する、というケースは少なくなってきていますが、非結核性抗酸菌症はなかなか治りきらずに出血したり、気管支拡張症に発展したりというケースが増えてきているように思います。

それから急性の発症であれば肺胞出血、それに肺塞栓や大動脈瘤破裂などの血管系疾患は見逃すと致死的になりますので、鑑別診断に入れておくことが重要です。

肺胞出血の原因で多いのは、血管炎(多発血管炎性肉芽腫症:GPAや顕微鏡的多発血管炎:MPA)とSLEなどの膠原病、それから有名どころ?の抗基底膜抗体症候群(Goodpasture症候群)が挙げられます。後は薬剤性をはじめとする出血傾向によるもの(ワーファリンの過量やDOACなんかで)をしばしば見かけます。

それ以外には感染症(肺膿瘍や気管支炎、それに真菌症など)がしばしば経験されます。心不全も鑑別としては挙げられますが、心不全の痰を「いわゆる血痰」とするのかどうかは微妙なところかもしれません。

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2018年08月28日

肺腫瘍疑い症例の、診断の進め方2

CT検診で見つかったような孤立性の結節について、2005年のFleischner Society や2013年のACCP第3版ガイドラインは、肺癌のリスク因子(喫煙歴・年齢・COPDの有無など)のあるなし、そして大きさによってフォロー期間の分類をしています。

一方、日本CT検診学会による診断アルゴリズムでは、もう少しシンプルに、主に画像所見で分類して、判定基準と経過観察の考え方が示されています。これは日本CT検診学会のホームページに示されています。

こちらの方がまだシンプルですので、簡単にご紹介します。

最大型と短径の平均値が6mm未満の場合は12ヶ月後の検診CTフォローアップが勧められています。

6 mm 以上の時にはsolid nodule、part solid nodule、pure GGNの三つに分類します。

・solid nodule(充実型結節)で最大径10mm以上のものであれば原則として確定診断を実施し、6〜10mmのものは、喫煙者と非喫煙者に分け、喫煙者(肺癌リスクの高い人)の方をよりまめに経過観察し、最大径で2mm以上の増大があれば確定診断します。

・part solid nodule(部分充実型結節)は、全体の最大径が15mm以上の場合と、15mm未満でも充実成分の最大型が肺野条件で5 mmより大きい場合は確定診断を行います。充実成分が5mm以下の場合は経過観察しますが、増大(結節全体あるいは充実成分ともに2 mm以上の増大)があれば確定診断です。

・pure GGN(すりガラス型結節)の場合、最大径が15mm以上であれば4ヶ月後のCTにて縮小していなければ確定診断を行います。15mm未満の場合はまめに経過観察を行い2ミリ以上の増大あるいは濃度上昇をしている場合に確定診断します。24ヶ月後まで大きさが変わらなくてもさらに年1回の経過観察 CT を長期にわたって行うこと、とされています。

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2018年08月27日

肺腫瘍疑い症例の、診断の進め方

ということで、今日日肺癌の治療には、小細胞肺癌か非小細胞肺癌かに加えて、非小細胞肺癌の中でも扁平上皮癌か非扁平上皮癌かという組織型による治療法の選択、さらにそれに加えて遺伝子変異・遺伝子転座の有無、さらにさらに PDL 1陽性腫瘍細胞の割合も確認しておく必要があります。

これらの検討を行うためには、各々そこそこの量、大きさの検体が必要であり、生検でしっかりと組織を採っておかなければなりません。ですから、肺腫瘍を疑う症例では、喀痰細胞診、などというわずかの細胞しか得られない検査ではなく、必ず生検をするのが原則となっております。

生検のために行われる検査としては、以下のようなものがあります。

・気管支鏡検査
・CTガイド下肺生検
・胸腔鏡
・縦隔鏡

まず気管支鏡検査。ポピュラーな検査ではありますが、合併症として生検による出血そして気胸などがあります。それと気道分泌物を減らす目的で抗コリン薬を使用するために緑内障や前立腺肥大を悪化させるおそれがあります。あとは局所麻酔薬(主にリドカイン)に対するアレルギーや中毒も想定しておく必要があります。

気管支を通じて生検をするため、うまく結節に入っていく気管支を通らないと診断がつかない可能性もあります。特に胸膜直下の結節や腫瘤の診断には、CT ガイド下肺生検の方が適している場合があります。

CT ガイド下肺生検は胸壁に針を刺し、胸膜を貫きますので 合併症として気胸や出血などが起こります。

胸水が溜まっている場合、胸腔鏡(局所麻酔)で胸腔内を観察して生検するということも行いますし、肺の切除も胸腔鏡(全身麻酔)で行います。

縦隔リンパ節の腫大がある場合は縦隔鏡を使って生検を行いますがこちらも全身麻酔が必要になることが多いため、ややハードルの高い検査になります。


生検で肺癌と確定したら、画像診断で病期診断(Staging)を行います。ここで使うのは、胸(腹)部造影CT、頭部MRI、FDG-PETなどです。

悪性腫瘍かどうか、診断ができていない段階で、診断のために全身のFDG-PETを行う、ということも見かけますが、FDG-PETは2018年8月現在ではあくまで悪性腫瘍の確定病名がある症例でしか保険適用がありません。

そもそもFDG-PETはあくまでもブドウ糖の取り込みが多い場所=細胞分裂の盛んな組織や炎症の部位が光って見えるもので、もちろん癌組織でも光りますが、癌の診断に使えるわけではないのです(よく使われてますけど…)。

全身が見れるので遠隔転移の検索には適していますが、確定診断にはまず生検を行い、次に造影CD、脳MRI、そしてFDG-PETを行う、こういう順番でステージング(病期分類)を行っていきます。

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2018年08月26日

「HEATAPP!」ようやく読了

ずいぶん時間がわかりましたが、「HEATAPP!」をようやく読了することが出来ました。

やはり私たち教員のための本でした。

岩田先生の基準からすると、まったくボンクラな臨床医である自分が、人を教える、という立場でいていいのだろうか、と読みながら自問する日々でありましたが、(まあ、それで時間がかかった面もありますが…)まあ今年の分は仕方ありません。このままやってしまいましょう。

まあ教壇に立つ言い訳をするならば、学生さんに伝えておられる内容自体は、おおよそ私も常日頃言っていることでしたので、なんとか伝えるものとしては、立ってもいいのかなと。でも、背中を見せるのはちょっと無理筋ですので、何とかしなくちゃなりませんね…。

岩田先生が神戸大学の中で、大変ご苦労されている…というか、ストレスを感じておられる様子が、あるあるネタの宝庫で、とっても共感できましたが、これも含めて大学教員向けの本でしたねー。

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2018年08月25日

試験の変化について行けておらず

今日は、長女の付き添いで、こういうところに行って参りました。

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漢字検定をCBTで受けられるんですね〜。全く知りませんでした。

CBTといえば医学部専用のものだと思い込んでおりまして…思えばCBTはComputer-Based Testingってことですから、どこにも医学の要素が含まれていない名前ですね…。

完璧にシステム化されている試験の様子を見ていても、どんどん変わっていっている「教育」の現場が実感されますね。自分のところでやっているんですが、現場を見たことがなくて…なんだかすっかりおいていかれている感があります。

いろんなところを「自動化」出来るのは、本来教員にとって朗報のはず。もっとクリエイティブに変化し続けないといけないな〜と思いました。

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posted by 長尾大志 at 23:10 | Comment(0) | 子育て日記

2018年08月24日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説5・非小細胞肺癌治療の流れ3・W期扁平上皮癌・非扁平上皮癌の2次治療以降

2次治療以降の原則は、1次治療(やそれまでの治療)と系統を替える、ということです。ですから、1次治療で遺伝子変異や転座があり、その阻害薬を使ったケースや、免疫チェックポイント阻害薬を使ったケースでは、2次治療は細胞障害性抗癌剤を使うのが基本ですが、いくつかの場合では阻害薬⇒阻害薬、という流れの治療も行われます。

細胞障害性抗癌剤の中では、2次治療以降に有効性が確認されているのがドセタキセル(+ラムシルマブ)、ペメトレキセド単剤、S-1単剤です。

ラムシルマブはベバシズマブ同様のVEGF阻害薬で、血管新生を抑制します。ドセタキセルに併用が推奨されるのは、これまたベバシズマブ同様、75歳未満、PS0-1の症例です

3次治療以降にもなると、エビデンスはますます乏しいものですが、1次治療が何であっても(遺伝子異常やPD-L1の値に関わらず)、免疫チェックポイント阻害薬を使ってみてもよい、とされています。

今のところ、PD-L1をもってしても免疫チェックポイント阻害薬の効果を完全に予測できるものではなく、実際問題使ってみないと効果のほどがわからないところもあるので、非小細胞肺癌治療の流れの中で、属性にかかわらず一度はトライしてみても…ということかもしれません。医療費など、別の問題はありますが。

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2018年08月23日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説4・非小細胞肺癌治療の流れ2・W期扁平上皮癌・非扁平上皮癌の場合

プラチナ製剤併用療法でプラチナと組む相手は何がいいか、扁平上皮癌ではペメトレキセドやベバシズマブは使えませんので、シスプラチン+(ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、S-1)、ネダプラチン+ドセタキセル、カルボプラチン+(パクリタキセル、S-1)、が各種比較試験で同等の効果、とされています。


非扁平上皮癌の場合、まず遺伝子検査を行い、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座、ROS1遺伝子転座、BRAF遺伝子変異の有無を調べます。遺伝子異常があれば各々に対する阻害薬を使います。これはシンプルですね。

・EGFR遺伝子変異⇒EGFR-TKI
・ALK遺伝子転座⇒ALK-TKI
・ROS1遺伝子転座⇒クリゾチニブ(ALK-TKI)
・BRAF遺伝子変異⇒ダブラフェニブ(BRAF阻害剤)+トラメチニブ(MEK阻害剤)

このような遺伝子異常がない場合、残念ながらTKIは使っても御利益がありません。そこで次善の策として免疫チェックポイント阻害薬の可能性を探ることになります。すなわちPD-L1染色を行い、PD-L1陽性腫瘍細胞≧50%の場合、ペムブロリズマブを選択します。

遺伝子異常がなく、かつ、PD-L1が50%未満、もしくは不明の場合、細胞障害性抗癌剤を使います。

その際の選び方は扁平上皮癌同様、年齢(75歳で区切る)、PS(0-1か2か3以上か)で決めるところプラス、非扁平上皮癌ではペメトレキセドやベバシズマブが使えます。

ペメトレキセドは葉酸+ビタミンB12製剤と併用することで副作用が軽減され、比較的強い副作用が少ないこと、比較的効果が長続きするケースが見られることなどから、1次治療のプラチナ製剤併用療法を4サイクル施行後もペメトレキセドのみ使い続ける、維持療法(maintenance therapy)を行うことが推奨されています。私の経験でも、結構長く使えた症例がありました。

ベバシズマブは75歳未満、PS0-1の症例で、プラチナ製剤併用療法(カルボプラチン+パクリタキセル、カルボプラチン+ペメトレキセド)に加えての使用となります。

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体で、VEGFの働きを阻害し血管新生を抑えますので、出血が止まらなくなる、血栓、高血圧、蛋白尿などの副作用があります。従って、特に出血しそうな/している症例では禁忌となります。


…なんか台風がアレみたいですので、今日はこれにて失礼します。

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2018年08月22日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説3・非小細胞肺癌治療の流れ1

以上をふまえまして、2018年8月現在の、肺癌診療ガイドラインに基づく非小細胞肺癌治療の流れを概観しましょう。

まずは、根治ができるかどうか、すなわち手術ができるかどうかを確認します。T期U期であればここですね。抗癌剤による治療が進歩した、とはいっても、根治する治療にはかなうものではありません。根治するかしないかは患者さんにとって、本当の意味での死活問題です。

可能な状況であればまずは手術による根治を目指す、これは間違いない治療選択です。ただ、PSや年齢、肺機能他の臓器障害、浸潤などなどの状況次第では「手術可能」とならないことも多々あります。

VA期の場合、いくつかの条件で治療を考えることになります。

T3〜4、すなわち浸潤している範囲=手術で切除しなければならない範囲が広い場合、外科の先生とよくよく相談して、切除可能かどうかを決めることになります。

N2、すなわち縦隔リンパ節の腫脹が見られる場合、先に書いたとおり、手術成績を改善させる(=再発率を低下させる)ために導入療法として化学放射線療法を行う、という治療をするかどうか、外科、放射線科の先生との協議が必要です。

根治が期待できる状況であれば根治を目指したいところではありますが、化学放射線療法では合併症もそれなりに起こるので、慎重な検討が必要です。ここのところはエビデンスで割り切れないものがあると感じています。

で、VB以上になると手術での根治は図れない、ということで、手術は選択せず、根治照射が可能そうな程度に限局していれば、化学放射線療法または放射線単独療法を選択します。

根治照射が可能でない場合はW期と同じ扱いで、化学療法中心でやっていくことになります。

W期の場合、化学療法選択のために、まず扁平上皮癌か非扁平上皮癌かを分け、次いで遺伝子異常を調べ、それからPD-L1陽性細胞の割合を確認します。

扁平上皮癌の場合、通常は遺伝子検査を行わずPD-L1染色を行います。PD-L1陽性腫瘍細胞≧50%の場合、ペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬)を使います。

PD-L1が50%未満、もしくは不明の場合、細胞障害性抗癌剤を使います。細胞障害性抗癌剤は元気だったら(=PSが0か1、かつ75歳未満なら)プラチナ製剤併用療法を行います。

75歳以上の場合は細胞障害性抗癌剤単剤、またはカルボプラチン併用療法になります。要は75歳以上ではシスプラチンは避ける、ということですね。

PS 2の場合はプラチナ製剤併用療法または細胞障害性抗癌剤を選択します。つまり、PSが多少悪くてもシスプラチンを使わない理由にはならない、ということです。しかしPS 3か4の場合には、薬物療法は勧められません。

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2018年08月21日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説2・PD-L1について

こうしてタバコ癌は「予後がグンと延びる治療」から取り残されていた感がありましたが、ついに天才的な発想によって、そのような肺癌にも治療の道が拓かれました。

そう、ご存じ、免疫チェックポイント阻害薬ですね。本来、T細胞が癌細胞を攻撃するのですが、癌細胞によってその攻撃性にブレーキがかかった状態(免疫寛容)になっていることがあります。そのブレーキを解放する発想で、具体的にはPD-1、PD-L1の結合を阻害し、抗腫瘍効果を現します。

とすると、PD-L1が多く陽性に見られる方が、それを阻害することで効果が期待できる、というわけで、
・PD-L1陽性腫瘍細胞が多い
場合に、免疫チェックポイント阻害薬が推奨されるようになりました。

ただし、遺伝子変異で癌化したものに対する阻害薬、ほど「ピタッ」と効くわけではありません。そもそも、どの程度T細胞が頑張っているかがわかるものでもありませんし、PD-L1に過度の期待はできません。

ですから、優先順位としては、非小細胞肺癌・非扁平上皮癌では、まず遺伝子異常を調べ、その阻害薬が使えない、もしくは使えなくなったときに、PD-L1染色で陽性細胞の割合を確認して免疫チェックポイント阻害薬が使えるかどうか検討する、ということになり、扁平上皮癌の場合には遺伝子異常は調べず、最初からPD-L1染色で陽性細胞の割合を確認することになります。

免疫チェックポイント阻害薬は残念ながら2018年8月現在、小細胞肺癌にはまだ保険適応がありませんが、海の向こうでは使えるようになってきているようであります。メチャクチャ高い薬なので、手放しに喜べないところではありますが…。


上記の薬剤以外に、ベバシズマブやラムシルマブ(いずれもVEGF阻害薬)、ペメトレキセド(葉酸拮抗薬)も、(抜群に、ではないにせよ)予後延長を期待できる薬剤で、かつ使用するにあたっての制約がありますから、各々その制約に当てはまるかどうかを検討して薬剤の選択を行います。

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2018年08月20日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説1・遺伝子異常について

肺癌診療ガイドラインはもう大変です。毎年改訂されています。それもそのはず、毎年新製品が出るからです。それも、それなりの「エビデンス」を携えて。

昨今はエビデンス至上主義ですから、出たらどんどんガイドライン書き換え、まあ、大人の事情?も多分にあるわけですが。そういうわけで、それを追いかけるのはまあまあ大変ですが、ここ最近の大きな流れはあまり変わっておりません。

その流れとは、「グンと予後が延びる薬剤が使える条件を満たす患者さんを同定し、その薬剤を使う」というもの。以前は一次治療のエビデンスが不足しておりましたが、最近は文句なく、従来の細胞障害性抗癌剤(単剤または併用)より予後を延長することがハッキリしておりますので、わりとそのあたりの考え方はシンプルになっております。

少なくとも今どき、生検、または手術検体を分析して、そういう条件の有無を調べる、ということは、肺癌治療を進める上で必須となってきております。

その条件とは…

・EGFR遺伝子変異
・ALK遺伝子転座
・ROS1遺伝子転座
・BRAF遺伝子変異
・PD-L1陽性腫瘍細胞が多い
(2018年8月現在)

遺伝子変異、と転座、とは、異なる事象ではありますが、臨床的にはまあ同じようなもの、と取り扱えるかもしれません。遺伝子の、とあるピンポイントの異常によって、細胞が無制限に無秩序に増殖するようになり、癌化してしまったような状況です。

そのようなケースでは、その異常部位をブロックしてやることによって、癌細胞の増殖を「ピタッ」と止めることができるわけで、これ(20世紀)までにない効果が期待できます。

ただ、いわゆるタバコ癌、小細胞肺癌や扁平上皮癌では、これらの変異は認められません。タバコによって起こる癌化は、単純なピンポイントの問題ではなく、複数の遺伝子の傷害、変異によって起こっているようです。ですから、肺癌化学療法においては、まず小細胞肺癌や扁平上皮癌を除外して、これらの遺伝子異常を検討する、という流れができたのです。

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2018年08月19日

9月22日(土) 糸魚川総合病院にてのお話/11月2日(金) 産業医科大学(小倉)にてのお話

9月22日(土)、初期研修医の先生方に人気の、研修病院として有名な糸魚川総合病院さんにお邪魔します。そして、11月2日(金)は小倉にお邪魔して、産業医大中心として、研修医の先生方にお話をいたします。

若手の先生方に、どんなお話がいいかなあ、ということを最近考えるところが多いです。例えば胸部X線のレクチャーだって、基本からやるのがいいのか、ある程度基本は飛ばす方がいいのか。正直、『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』を読んでおられるかどうかで、かなり出発点が違って参りますし。

症例ベースでお話、も面白いのですが、それだと網羅的に、ということにはなりません。まあ、網羅的に…は限られた時間だとどっちつかずになり、難しいところですねえ。

ということで、糸魚川総合病院さんでは、呼吸器疾患患者さんのディスカッションを通じて、だいたいの皆さんの習熟度を拝見した上で、「胸部X線写真読影」他いくつかのトピックでお話をする、ということになるかなあ、と思っています。昨年の西伊豆健育会病院さんや、今年初めの奄美中央病院さんでやらせていただいた感じでしょうか。

産業医大さんでは、時間も限られていますのと、私以外にも数名の先生方によるレクチャーがありますので、思い切って症例検討方式でやろうかなと思っています。テーマは最近アツい(単に最近原稿をたくさん書いている、という個人的な理由ですが…)「低酸素」。おなじみ?低酸素のメカニズム、この症例はなぜ低酸素なのか、病歴や身体所見から考えてもらい、呼吸器疾患の奥の深さ、身体所見を診る楽しさを感じてもらおうカナーと考えています。症例のメボシもついております。題して『低酸素四番勝負』、なかなか楽しみでございます。

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posted by 長尾大志 at 21:56 | Comment(0) | 活動報告

2018年08月18日

呼吸器内科 ただいま授業改革中!

絶賛展開中の「ただいま診断中!」シリーズではありませんが、夏休みの時間がまとまってとれるタイミングで、授業のスライドを見直しました。

先週書きましたように「HEATAPP!」を拝読いたしまして(まだ読了してはおりませんが…)、取り入れられるところを取り入れようとしておりますが、私のオツムの容量では、岩田先生のように身一つで教室に入り、ひたすら立て板に水のごとく…ということは不可能です。そこでスライドの助けを借りることになります。呼吸器系8コマ分+診断学2コマ分+看護科2コマ分のスライドはおおよそ出来ました。

診断学は、呼吸器系の症状から特異的な症状を紹介…という形式だったのを、島根大学の和足先生からいただいたアイデアを取り入れ、かなりグループワーク重視の形にしました。もう、こちらから教えるのは一部にしていきます。

看護系も、昨年の感触から、意外に?グループワークもいけそうな感じがしますので、(まあ、こちらから伝えることも多く残してはいますが)そういうところに慣れていっていただこうかなと。これからの看護師さんには必須の経験だと思いますので。

そして、クリッカーも、ずいぶんお世話になりましたが、いよいよ各種アンケートツールも使えるようになってきた(と、私は思っていたのですが、実はすでに以前から使われていた模様…)こともあって、クリッカーを返上させていただきました。まあ、配ったり回収したりが手間でしたし、「時間のムダ」との指摘も学生さんからありましたので…。

一時Google Formでやろうかと思っておりましたが、つまらない横やりが入ったので、別のツールを使ってみることにします。試運転ではまあまあうまくいきましたので、あとはQRコードを作って本番に備えましょう。また、うまくいきましたら、ご報告させていただきます。授業は11月です。

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2018年08月17日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説31・菌が検出されたときの抗菌薬7

あ、言い忘れておりましたけれども、「第2選択薬」というのは、第1選択薬がアレルギーや他の事情で使えないときに「仕方なく」選択するもの、というふうに考えて下さい。決して、1でも2でも同列、ということではありません。


■ 緑膿菌が検出された場合

緑膿菌が出てしまうと、これはもう広域でいかざるを得ません。それと、菌が得られているのであれば必ず薬剤感受性を確認しての選択が求められるところです。

外来治療は経口薬ですけど、緑膿菌肺炎を外来で治療する、って、なかなかレアなシチュエーションではないかと思います。経口薬で緑膿菌に対して効果がある、といえばこれしかありません。
  • 第1選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、シタフロキサシン)。緑膿菌に対して効果があるのはキノロンの中ではこれらのものです。ちなみにシプロフロキサシンは緑膿菌はじめグラム陰性桿菌にはいいのですが、グラム陽性球菌にはあまりよくないので、レスピラトリーキノロン(要するに「肺炎向け」キノロン、ということ)には含まれていません。


入院治療(注射薬)だと、
  • 第1選択薬|ピペラシリン、タゾバクタム・ピペラシリン

  • 第2選択薬|第三、四世代セフェム系薬(セフタジジム、セフェピム、セフォゾプラン)

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

  • 第4選択薬|カルバペネム系薬(メロペネム、ドリペネム、ビアペネム)

となりますが、患者さんの状態、感受性によっては併用療法も視野に入れることになります。

肺炎ガイドライン解説

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posted by 長尾大志 at 18:11 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2018年08月16日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説30・菌が検出されたときの抗菌薬6

■ 嫌気性菌が検出された場合

「嫌気性菌を検出する」というのは現実問題、なかなか難しいことです。普通に培養しても、「嫌気性菌」なんで、空気に触れるとあまり生えてきません。喀痰塗抹でウジャウジャ雑多な菌がいたのに、培養してもたいして何も生えてこない、なんてときに「嫌気性菌かな〜?」と考えるくらいでしょうか。

そんなとき、外来治療(経口薬)では、
  • 第1選択薬|やっぱりβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン、ですが、レボフロキサシンは嫌気性菌に弱い、で有名?です。ウソです。全然有名じゃありません。誰もご存じないから、誤嚥性肺炎にレボフロキサシンを投与して、「よくなりませ〜ん♡」という紹介が後を絶たないのです。嫌気性菌に対してはレスピラトリーキノロンの中ではガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシンが使われます。


入院治療(注射薬)だと、
  • 第1選択薬|スルバクタム・アンピシリン。間違いないです。

  • 第2選択薬|メトロニダゾール、クリンダマイシン


一昔前にはマニアの武器であったメトロニダゾールも、すっかりガイドライン常連さん?になりました。クリンダマイシン耐性のプレボテラ属が増えている、とされますので、今後ますます使う機会が増えるかもしれませんね。

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posted by 長尾大志 at 17:18 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2018年08月15日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説29・菌が検出されたときの抗菌薬5

■ モラクセラ・カタラーリスが検出された場合

・外来治療の場合(経口薬)

モラクセラ・カタラーリスはほぼβラクタマーゼを産生する、と考えます。ペニシリン系薬を使うのであれば、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬が必須です。意外にマクロライド系が使えるのが、特記すべき点ですね。
  • 第1選択薬|βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

  • 第2選択薬|マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

  • 第3選択薬|レスピラトリーキノロン(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)


・入院治療の場合(注射薬)

  • 第1選択薬|やはりスルバクタム・アンピシリン

  • 第2選択薬|第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)



ガイドラインではこのあたりにクラミジア、黄色ブドウ球菌について書いてありますが、実際出会うことは少ないと思いますので、ここでは割愛します。

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2018年08月14日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説28・菌が検出されたときの抗菌薬4

■ マイコプラズマが検出された場合

外来治療は内服薬で。
  • 第1選択薬|マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン)

  • 第2選択薬|ミノサイクリン、レスピラトリーキノロン((ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

いつものことですが、マクロライド耐性マイコプラズマが〜みたいなことが書いてありますが、まあ成人では耐性マイコプラズマによる治療失敗、ということはあまりありません。ですのでここはマクロライドでいい。よほど耐性が問題になる、気になる場合でも、ミノサイクリンでOKです。

入院治療は注射薬を選択するという建前ですので、注射薬のあるものからの選択です。当たり前ですが。
  • 第1選択薬|ミノサイクリン、マクロライド系薬(アジスロマイシン、エリスロマイシン)

  • 第2選択薬|キノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン)

キノロンについては上に同じです。


■ レジオネラが検出された場合

  • 第1選択薬|キノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)、アジスロマイシン


レジオネラとなったら、瞬時も迷うことなくキノロンです。重症の場合はアジスロマイシンと併用です。第2選択、なんちゅうものはありません。とにかくキノロンです。

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2018年08月13日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説27・菌が検出されたときの抗菌薬3

■ クレブシエラ属や他の腸内細菌科が検出された場合

外来でこの手の菌による肺炎を治療する、ということはあまりなさそうですが…。クレブシエラ属で問題になる耐性といえばESBL産生菌ですが、その比率はそれほど多くありません(1〜数%)。ただ、ESBL産生株の多くはキノロン耐性も同時に有していますので、抗菌薬選択の際には注意が必要です。できれば分離菌のその施設における薬剤感受性を確認して、薬剤を選択するのが望ましいかと思われます

一応、一般論として、外来治療(経口薬)では、
  • 第1選択薬|βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリンクラブラン酸)

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン、クレブシエラっぽくて、そこそこ重症で、どうしてもでも外来で、内服薬で、とかいう場合があるかどうかわかりませんが、そういう場合でしょうか。


入院治療の場合注射薬を選択します。
  • 第1選択薬|第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)、それから毎度おなじみスルバクタム・アンピシリンです。陰性桿菌、腸内細菌、となると、一応順番的にセフェムが優先される感じです。

  • 第2選択薬|タゾバクタム・ピペラシリン。ここでいるかねとも思いますが…。

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬。


ESBL産生株であれば、どれも無効ですのでカルバペネム系を使うことになります。

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2018年08月12日

HEATAPP!(ヒートアップ!)

というわけで、ようやくやってきた夏休み。今年の授業はどう展開しようか…と手に取ったのが、岩田健太郎先生の『HEATAPP!(ヒートアップ!)』。

評判を聞き及び、手に取ったものの…、これはスゴい。なかなか読み進められません。

TBLやPBLに対する、何となく抱いていた違和感、これを見事に言語化、問題点を抽出され、自らよりよい「学生の行うべきグループ学習」を実践される。そしてそれを、全国の「迷える教員、指導医」たちに示してくださる。

いやあこれはスゴい(二回目)。

岩田先生のご講演とかを聴講された方はおわかりだと思うのですが、あの量の知見を、パワポ一つ使わずに、ただひたすらしゃべられるのですね。もうそれだけで驚嘆ですよ。

で、この書籍では、学生のモチベーションを上げ(まあ、内面はわからないにせよ)、少なくとも学生の振る舞いを変え、アウトカムを変えるように、圧倒的な量の「(その振る舞いの基盤となる)知識」を与え、圧倒的高見からの「指示」を与えていく、圧巻の過程が記録されています。

問いかけた学生の答えに対する反応も、サスガですし。本筋とは違いますが、例によって?学会や教授会の偉い先生方へのメッセージに共感することも多かったり、というわけで、いちいち唸り声を上げながら読んでいると、全然進みません(二回目)。

これ、一見学生向けの見た目ですが、どう考えても私たち教員向けの本ですよね。耳の痛い、グサグサ胸に突き刺さる言葉がいっぱい。

日頃、学生さんや研修医の先生方の教育に携わっている先生方の会議に出たりするときに、「近頃の学生は〜」「困った学生が〜」という文脈のお話をよく耳にするわけですが、実は「近頃の教員は〜」「困った教員が〜」と置き換えても、全く違和感がなかったりするのでは?と、この本を読んで痛切に自戒している次第です。学生さんに勧める前に、まずは教員が熟読玩味し、実践できるようにしておかなくてはならない、それこそがこの本の、岩田先生のねらいではないかと思いました。

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