抗癌剤のお話も中途なのですが、ここで『喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap :ACO)診断と治療の手引き2018』について、緊急に解説しなくてはならない事情が生じました。つい先日呼吸器学会会員のところに冊子が送られてきたわけですが、このタイミングで一度まとめておかなくてはならないな…と思っていたので、ちょうど渡りに船であります。
そもそもACOって、「ACOS(Asthma-COPD Overlap Syndrome)じゃなかったの?」と思われる方も多いでしょう。そうなのです。名前が変わりました。要はSyndromeが取れただけ。
『喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap :ACO)診断と治療の手引き2018』の第1章に言い訳がましくその経緯が書いてありますのでかいつまんで説明すると、“症候群”という言葉は、そもそも原因不明で共通の病態を呈する様々な疾患を一絡げにする場合に使用される言葉でありまして、喘息とCOPDという、臨床的特徴が多様である疾患をくくるのに相応しい言葉ではない、なんてことが書いてあります。
んなことは最初からわかっていたわけで、唐突な名称の変更は、大人の事情が垣間見えるものでありますが…まあここには書けません。
まあともかく、異なる原因、異なる機序で発症している喘息とCOPDですが、しばしば両者の特徴を併せもつ場合があり、その状態を特別扱いしよう、ということでオーバーラップしている症例に名前を付けた、それがACOSでありACOとなった、ということです。
単にオーバーラップしている以上に、わざわざ名称を付ける意味はあるのか?という気がしないでもありませんが、概念に名前を付ける、というのは多くの、特に研究者、論文を書く人々にとってはメリットが大きいものです(ここにも大人の事情が…)。そういう面もあるのでしょう。
わざわざ名称を付けるからには、ACO独特の予後であったり治療であったりがあるのか?というと、今のところそういうわけでもなく…まあ今後、各メーカーが懸命に何らかのエビデンスを出そうとしているので、何か出てくるかもしれませんけど。
じゃあここで取り上げる必要だってないんじゃないの?とも思われるかもしれません。確かにACOという概念自体には大した意味はない(言っちゃった…)んですが、実はこれまでにも書いてきたとおり、「喘息かCOPDか、あるいは両方か」を非専門医の先生方に判断、診断して頂く、という問題については、大変重要な課題であると思っています。
喘息を正しく診断する、COPDを正しく診断する、オーバーラップしてるんだったら、それも正しく診断する、ということです。これまで私が書いてきたことがこの『手引き』にまとめて書かれている、なのでここで今一度解説しておこうというわけです。
・ACOの定義(『喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap :ACO)診断と治療の手引き2018』より)
慢性の気流閉塞を示し、喘息とCOPDのそれぞれの特徴を併せもつ疾患である。
・ACO診断の基準(『喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap :ACO)診断と治療の手引き2018』より)
40歳以上で、呼吸機能検査で気管支拡張薬吸入後の1病率が70%未満であり、COPDの特徴と喘息の特徴を有する。ACOを診断する際に喘息の特徴を確定出来ない場合、喘息の特徴の有無について経過を追って観察することが重要である。
呼吸器専門でないドクターのための呼吸器実践